家政婦が見た! 〜スパーダさんちの双子さん〜 私の名前は。 と呼んで頂戴。職業はハウスキーパー、家政婦よ。 これまで行く先々のご家庭で働いて、様々な家族の問題を解決してきたわ。家族間では解決が難しい問題でも、私が入れば絡まった糸なんてチョチョイノチョイ。こう見えてもちょっと腕には自信があるの。 先日行ったご家庭は男やもめの一人暮らしだったんだけど、これが生活態度が乱れていて見ていられなかったわぁー。父だか兄だかの使用品を求めて世界各国を旅しているって言ってた。あの男は紛れもないブラコンよ、私の目に間違いないわ。無精ひげを生やしてちょっとラテンの風を吹かせながら「刺激がある方が人生は楽しい」なーんて気障なことを言ってたっけ……一週間ほどいなくなって困ったわねえなんて思っていたら帰ってきたときに人間のお土産まで持ってきたのは驚いたわ〜、それがまた行方知れずだったって言うお兄さんなんだって!それでね-------あら、そう? ごめんなさいね話がそれてしまったわ。 そう、で、その仕事を片付けて一息ついていた頃だったのよ、その仕事が舞い込んだのは…ちょうど半年ほど前。家政婦協会に姿を見せるなり、おエライさんに呼ばれて話が始まったわ。 「さんよく来てくれました。あなたにお任せしたい仕事があるんですよ」 そういって渡された依頼がこれだった。私はその資料をざっと目を通したの。 「お化け屋敷の双子のお世話、ですか?」 「簡単に言うとそうだ。お化け屋敷というのは無論正式名称ではないけども山の奥にある洋風の一軒家でスパーダさんという家族がすんでいてねぇ。今度結婚20周年を迎えるんで記念旅行の一ヶ月の間、息子二人の面倒を見てほしいとのことだ」 「世話をするだけでしたら、私が行く必要があるのでしょうか?」 「そうなんだよさん。問題はそこなんだ」 そうでしょうね。私はそう心の中でつぶやいた。ただ子供の面倒を見るだけなら私を呼ぶ必要はないからだ。 「お化け屋敷と噂されているのが問題でねえ。なんでも、その家族の態度は特に問題はないそうなんだが、いかんせん屋敷がね……」 「まさか本当にお化け屋敷なんでしょうか」 「さてねえ。今までも何人か行ってもらったんだけど一日と持たなかったんだよ。夫妻も困ってしまってね。未成年の息子二人で山奥一ヶ月おいていくわけにも行かないと」 「そういうことでしたか」 私はようやく納得した。自分が呼ばれたわけはこれなのね、と。数々の家政婦を追い返したというお化け屋敷……、その正体とは? きっとアレよ、父さんと母さんに旅行に行ってほしくない息子達の悪戯ってところでしょ。それが本格的な驚かし方だから上手くお化けのせいに見せかけることが出来ていたんでしょう。面白いじゃないの!私が行って、幽霊の正体見たり枯れ尾花的な展開にしてやるんだから! 「いってくれるかね?さん」 「勿論です。この、全力で働いて見せますわ」 私は腕をまくって、だるんだるんの二の腕をぐっと力強く見せつけるのだった。 「ここが…スパーダさんちなのね。これはまた随分と立派な家ねえ。一人じゃ骨が折れるかもしれないわ」 私は早速スパーダ家へと飛んだ。駅からタクシーで数時間。本当に山という山をかき分け、車が通れるぎりぎりの獣道を走り、到底人が住めそうにもない森の奥地へと進むと、ぽっかりと目の前が開けて、とても立派な洋館が見えてきた。 「あそこね」 門の目の前まで運んでもらい、タクシーを返す。運転手は会話の途中で何度か「ここに来る家政婦さんは大抵送って数時間もすればタクシー会社に電話が来て、すぐさま乗って帰って行った」……と話したわ。ふん。私はそうはいかないわよ。ぐっと胸を張る。そうよ、わたしは。伝説のトラブルバスター。どんなおばけでもこてんぱんにのしてやるからかかってらっしゃい! 門にはインターフォンがついておらず、仕方なくそのまま門を開けて中に入った。玄関まで来て、なぜなのか…ぞっとしたわ。今まで覚えたことのない戦慄が走ったの。これはなにかある、そう直感したわ。オンナの直感は確かよ。戦慄を振り払うかのように私は己の頬を数回たたいた。負けないわよ! 玄関をノックしようとして手を伸ばすと、不思議なことにドアが勝手に開いたの。 「あらっ」 この家はインターフォンがない代わりにセンサーでもついているのかしら。古風に見えて意外に最先端な設備なのかもしれないわ。教訓その一、先入観でものをみてはいけないわね。自分の頭でちゃんと考えて判断しなくては…。 「ごめんください。家政婦協会からまいりました、と申します」 大きく声をかける。さすがにここからは勝手に入っちゃまずいしね。 「そのまま中に入り、まっすぐお進みください。つきあたりを右に曲がり、通路の左側にある三つ目のドアです」 「どうもご丁寧に」 この家の方かしらと思って私は頭を下げたの。でもそこには誰もいなかった。 「あらあら、この家にはセンサーの他に音声ガイダンスまであるのね、本当に進んでる家……」 靴を脱いでスリッパをはいた。ふんわりと足を包む感触。これは相当ね。相当な資産家なコトは確かだわ。先ほど教えてもらった通りに歩いていくと廊下には年代物らしいいろいろなものが飾ってあったわ。武器みたいなモノも混じっている。おどろおどろしい銅像みたいなものあって、なんのコレクションなのかしら?お金持ちの考えることはよく分からないわね。ま、いいわ。 部屋に入った私を待っていたのは当然ながらスパーダ夫妻よ。旦那様の方はいかにもロマンスグレーで穏やかで落ち着いて貫禄のありそうな風貌だったわ。奥様は随分若くて、相当な年齢差カップルであることがうかがい知れた。きれいな人で、優しそうな微笑みを浮かべていた。 「ようこそ、さん」 その低く響き渡る声を皮切りに、私たちは仕事の話しに入った。聞いていたとおり、息子達の面倒を見ていてほしいとの内容。ここからが本題ね。歴戦の勇者達を上手く追い返したという双子ちゃん達はどんな子達なのかしら……?私はわくわくする気持ちを止められなかった。夫妻は息子たちを部屋に呼んだわ。ギィとドアが音を立てて開かれる。部屋に二つの銀の少年達が入ってきた。 「今日から一月の間お世話になる方だ。迷惑をかけないように」 「さん、こちらがダンテ、そして向こうがバージルです」 私は目をぱちくりしちゃったわ!だって、仕方ないでしょう?世にも綺麗で素敵な若い男の子達が二人も現れたんだもの!手足はスラァっと長くてまるでモデルのよう。目は深い蒼。肌の色なんて透けてしまいそうだわ。髪の毛は金髪を通り越してプラチナブロンドと言ったところかしら、それが部屋の照明が当たってきらきら輝くの。おめめはぱっちり、鼻はすっと通って、意志の硬そうな唇。まさに紅顔の青年といった面持ちね。でもどちらも綺麗と言っても儚げな感じはなく、とってもたくましい男の子だった。人の家庭のいやな部分を垣間見る仕事ですもの、たまにはこういう役得もなくっちゃ。 双子と言っても彼らは顔の造作は似ていても、雰囲気も髪型も服装も全く違ったから、間違えることはなさそうでよかったわ。 「ダンテ坊ちゃま、バージル坊ちゃま、短い間ですが今日から身の回りの世話をさせていただきます、と申します」 「ちょっとまった!やめにしてくれよ、そんなかたっくるしい挨拶は」 「ですがそういうわけには」 「俺たちから頼むよ。もっとフランクに呼んでくれ」 髪の毛をおろした活発そうな子が肩をすくめてそういった。 こっちが双子の弟さんのダンテ。ダンテくん、ダンテくんと忘れないように心の中でつぶやいた。この子はイイ子ね。打ち解けやすそうで助かるわ。プラチナの髪がきらきらと綺麗なの。意志の強ような活発な印象があった。 もう一人の、オールバックにしているバージルという子は黙っているけど、どうしてなのかしら…。 「では、ダンテさん、バージルさんでよろしいでしょうか」 「じゃ、それで!」 私はバージルくんの方に顔を向けた。 「……よろしく頼む」 双子の兄であるバージルくんの台詞はこれだけ。人見知りなのかしら…それとも人間嫌いなのかしら?だとしたらやっかいだわ。 一通りの挨拶が終わり、夫妻はすぐに出かけていった。その間もバージルぼっちゃん…いえ、バージルくんの方は最初の挨拶以外黙りっぱなしだったけれど、私に目があった時に軽く礼をしてくれたところをみると、そう悪い子でもないみたいとわかってほっとしたわ。 そうそう、基本的な私の仕事の説明をするわね。三食昼寝付き家政婦よ。基本的にはご飯の用意、そして掃除に洗濯。この家は広いから、普段つかっていない部屋は掃除をする必要はないとのお達しだった。でもそこもちゃんとお掃除するわよ?私は伝説の、超一流なんだから手は抜かないわ! 私が寝泊まりする部屋は先ほど夫妻から聞いていたので、荷物をおろして早速家政婦ルックに変身よ。やっぱりたるものこれが正装よね。三角巾に割烹着。大地にどっかり太い根を下ろす樹のような、古風な日本女性の誕生よ。 気がつけばもう夕方だったので晩ご飯の支度をしなくっちゃ。お台所はどこかしら。この家には見取り図が必要ね!とおもって廊下をうろうろしていると、どこからともなく二つの声がしたわ。 「台所はそこを行って二つ目の右だったな兄者」 「台所はそこを行って二つ目の右だったぞ弟者」 「どなたか分かりませんが、教えてくれてありがとうございます」 つかってない部屋に誰かいるのかしら。このあたりにはいろいろな種類の剣が飾ってあるくらいだもの。もしかしたらこれも音声案内の一種で、迷っている人のために作ったモノなのかもしれないわ。何せこんな広い家、そして資産家と来ればどんな好事家であってもおかしくないもの。他にはどんな仕掛けがあるのやら。 早速キッチンに行って下準備を始める。最初の晩餐、まずは驚かせるために出来る限り豪勢に、かつ年頃の子達だから栄養バランスを考えて、 「見た目も美しく…そうね、和食と洋食、それに中華に……うぅん、迷っちゃうわぁ」 バージルくんさっきは無愛想だったけど、きっとおなかがすいていたのよ、おなかが空くと元気がなくなっちゃうから。ほら、あのぐらいの男の子ってよく食べ、よく遊び、よく眠るっていうものね。 「うふふっ私の料理がおいしくってほっぺたがおちそうになるあの子達の顔が容易に想像できちゃう」 餌付けにはおいしい料理が一番!胃袋をつかめば男なんてこっちのモノよ…☆ そうあれこれ考えているとダンテくんがひょっこり顔を出したの。 「、晩ご飯ていつごろになる?」 まっ、もう名前呼びなの?最近の子は色々と早いのね。 「そうですね、今から作りますからあと二時間ほどです」 「ジーザス!あと二時間もこの状態ッッ!」 ダンテくんは頭を抱えてがっくりとうなだれたわ。なんというハリウッド。動きがいちいち大げさなのは向こうの人だからなのかしら。 「そうですねえ…、冷蔵庫の中に入ってるもので簡単なものでよければすぐ作りましょうか」 「OKッ!俺たち晩ご飯それで大丈夫だからさ、量つくってくれよな!」 元気のいい子ねえ〜オバちゃん、嬉しくなっちゃうワ。 「じゃ、食堂で待ってるから、早めにたのんだぜ!」 颯爽と去るダンテくん。やんちゃな子って嫌いじゃないわ。 「よぅし、腕をふるっちゃうわよぉ!」 30分後、トレーに料理を載せて食堂に入ると、すでに二人はおなかを空かせて待っていた。さぁさ坊や達。私の料理でおなかいっぱい幸せいっぱいにおなりなさい! 「YEAHHHHHHHHHHうめええええええええええ!」 「いただきます」 ダンテくんは大仰に、バージルくんは静かに食べ始める。本当に対照的な双子ね。面白いくらいだわ。二人の食べる様子を見ていると、ダンテくんが不思議そうな顔で訪ねてきた。 「そういやの分はないのか?一緒にくわねぇの?」 「私は使用人ですから」 私は料理をしながら適当につまんでいるし、家政婦が一緒に食事を取ることはあり得ない。ハウスキーパーは、雇い主達の一挙一足に目を光らせてお世話をしなければならないのだから。 「お気持ちだけで十分光栄です、ありがとうございますダンテさん」 「一緒すりゃあいいのになあ、こんな上手いご飯なのに」 「ダンテ、無理強いをするな。それぞれの立場と言うものがある」 「バージル」 あら意外にまともなこというのね。相変わらず無愛想だけど。笑顔をこぼさないで私の料理を食べる事が出来るなんて、これは相当の猛者だわ。 バージルくんはダンテくんに注意したあとは黙って食べおわり、こちらを見て「ごちそうさまでした」といって席を立って出て行ってしまった。仕事だから仕方ないけど、おいしいって言ってもらえないのは切ない話よねえ……。あ…、いけない!しっかりしなきゃ!感傷に浸っている場合じゃないわよ!しっかりと仕事をしなくっちゃ! ダンテくんはもぐもぐごっくんすると、水でそれを流し、一息ついたところで私に話しかけてきた。 「あのさ、バージルのことなんだけど…」 「あ、はいっ」 「あいつさぁ、すっげえ無愛想だし態度はよくねぇし、すかしたヤツなんだけどさ。根は悪いやつじゃないから…そこんとこ出来たら気にしないでやってくれ。を嫌ってるわけじゃないんだ」 ……まぁああダンテくん、なんていい子!おばちゃん感激しちゃったワ! こんなに感動したのは、そうそうあれよ、たしか全身に刺青が入った灰色の顔色をしているお兄さんと双子の弟さんが同居している家で働いていたときに見た、満月の晩に暴れてしまうお兄さんを体を張って止めた弟さんの、美しい兄弟の絆……それ以来だわ。 私はダンテくんの手をぎゅっと握って「大丈夫です」と答えた。触れたところからダンテくんの暖かな気持ちが伝わってくるようだったわ。青春が爆発ね。 「ありがとう」 「使用人として当然ですわ。これからも頑張ります」 にこっと自慢のスマイルで笑ってみせる。こちらの笑顔を見て安心したのか程なくダンテくんも食べおわって、私は食後のお茶を入れながら軽く雑談をかわした。 「ここに来るまで大変だったろ? すげえ山奥だから」 「来るのは確かに時間がかかりましたけど、自然がたくさんあって空気がおいしいですね」 「それぐらいしか取り柄がねえからなーこの暮らしは。料理のうまい人が来てくれて助かったぜー」 「お上手ですねダンテさんは」 他愛のない会話から信頼関係は育まれてゆくのよ。短い間とはいえ信頼は大事よね。そうそう、バスの用意やベッドメイクもしなくっちゃ。 「着替えとタオルを用意しておきますので、お風呂にどうぞ。その間に寝室の準備をしておきますので」 「あー、うん風呂な。OK」 ダンテくんが自分の頭をわしわしとかき回している。どうしたのかしら。綺麗なプラチナが乱れちゃうわ。 「すぐにご用意できますが…今晩はどうされます?」 「や、あのさー今日来たばっかだろ。だから疲れてるだろうし、今日はもう寝て明日に備えてくれよ」 「いえ全く疲れておりませんので大丈夫ですわ」 そんなに疲れているように見えていたのかしらん。家政婦失格ね。いつでも笑顔でパワフルなが台無し。私はぐっと握り拳を作りガッツポーズをつくってみせ、優雅にその場を立ち去った。 「すぐに用意して参ります!」 私はすぐさまバスルームの用意をする。異人さんのお宅だから洋風なのかとばかり思っていたけれど、お風呂はまぁ見事な和風の作りだったわ。簡単に準備をすませ、着替えとタオルの用意を万全してからまずは先にお兄さんの方のバージルくんに声をかけに部屋へと向かった。 バージルくんとダンテくんの部屋は兄弟だから隣同士。足音を立てるのは下品なので廊下に敷かれたカーペットの上をしずしず歩き、部屋を近づいてくと誰かの話し声が聞こえてきたの。そう、これが私に降りかかる大きな事件のきっかけだったのよ…。 声からして部屋にいるのはダンテくんだとわかったわ。もう一つは……当然と言えば当然、この部屋の主バージルくん。独特の高い声がかすかに聞こえてくるわ。双子だから話していても何の不思議もないとお思いでしょう。えぇ私だっても普段ならそう思うわ。でも私のゴースt…私の中のがささやくのよ。 「秘密のにおいがする」 私は自分のインスピレーションを信じている。ならば今回も今まで通りにするだけ。ドアをノックしようとした手を下ろし、私はぴったりとドアに耳をつけた。イヤーはどんな些細な言葉さえ逃さない高感度。誤解しないで頂戴、これはあくまで任務なの。最初も言ったでしょう?私は伝説のハウスキーパーであり……トラブルバスターでもあると。数々の家族の闇を暴き解決へと導いてきた。家族のお悩み解決します。それがキャッチフレーズなんだもの。 中からは何かを相談しているような声が聞こえてくる。 「あの……は、今は風呂掃除なのだな」 これはバージルくんね。 「ああ、もう寝てくれていいっつったんだけどよ。しかもベッドメイクまでしにくるって。参ったぜ気が利くのも」 「それは当然だろう、仕事をしに来てるのだから」 「でもよ…せっかくオヤジもおふくろもいねえんだぜ…? バージル…」 「まてこの猿が。ソレにはまだ早い」 「イデェ!て、はな…、っい、いってー!」 「もうそろそろ迎えに来る時間だ、お前はお前の部屋に戻れ。怪しまれても面倒だ」 ドアに近づいてくる足音。きっとダンテくんだわ!私は隠れるためにとっさに天井に張り付いた。天井が高くて助かったわ、何かあったときのためにと学んでいた忍術が役に立ったわね。 バージルくんの部屋のドアが開いて中からダンテくんが出てきた。あたりをそっと見渡して、私の姿がないのを確認すると自分部屋へと帰る。 私は数分待って静かに着地し、何事もなかったかのようにバージルくんの部屋をドアをノックしたわ。 「バージルさん、お風呂の用意が出来ました」 「いまゆく」 相変わらず抑揚のない声のバージルくんが無表情のまま部屋から出てきて会釈をした後、そのままお風呂に向かったわ。 その姿は普通の男の子にしか見えないのに…こんな彼が何を隠しているというの?ダンテくんとナニを話していたの?心に闇をもったまま、大人になってはいけないのよ。私は自然とGカップの己の胸に手を当てた。 「あっれー?、風呂の用意できたんだ?」 バージルくんとの会話が聞こえたのだろう、ダンテくんが部屋から顔を出している。でも本当は聞き耳を立てていたんでしょ!全部お見通しよ。そんな思いを微塵も感じ取らせずに私は微笑んだ。 「はい、ダンテさんもどうぞ」 「サンキュ−!入らしてもらうよ」 ダンテくんは百万ドルの微笑みを私に投げかけて足取り軽く風呂へと向かった。彼らは先ほどの会話が私に聞かれているとは知らない。 ダンテくんのうきうきとした足取りを見て心が痛んだ。……こんな素敵な子供達が「怪しまれたら」なんて不穏な言葉を使っちゃダメよぅ! あなたたちの秘密がなんなのか今の私には分からない。心の闇はおいそれと人に言えるものではないことも分かっている。私に出来るコトなんてきっと微々たる部分。 でも。 それでも。 私はあなたたちを救います。 それが------だから。 さすがに家政婦とはいえ呼ばれない限りは入浴中の世話などしない。なので、今のうちにベッドメイクを済ませておかなくては。 私はバージルくんの部屋に先に入る。書庫かしらと勘違いするほどの量が所狭しと並べられていたわ。なにかの研究者なのかしら、それともただの本の虫? シーツを取り払い、新しいシーツへと手際よく取り替える。そしてベッドメイクが終わり、私は広い部屋の隅々に目をやって隠れられそうなところを探したわ。 「対策は早いほうがいいわ、今夜が勝負ね」 そうよ。ナニがあるのかが分かれば、後々の対応も出来るというもの。まずは敵情視察よ。部屋の中を触れたと分からないよう丁寧にチェックしていく。 「私は屋根裏がイイと思うわよ」 「そうですか、どうもご丁寧に」 あらっ、また声がしたから反射的に返事をしてしまったけど…なんなのかしらあの声は。私のゴースt(ryがささやいたのかしら。それとも、これがあのご両親が仕掛けていったかもしれないセンサーなのかしら。多分そうね。迷ってるときにタイミングよく音声案内が出るってなんて最先端の家! 「助かるわぁ」 私は屋根裏に忍び込む。普通の家は屋根裏なんて使わないから埃だらけのはずだけれど、この家はなぜか新築のようにぴかぴかだった。ざっと回りをチェックし屋根裏がダンテくんの部屋まで続いているのを確認する。ここなら完璧だわ。バージルくんの部屋に戻り、続いてダンテくんの部屋のベッドメイクを済ませてしまう。 「さ、これで用意は完璧よ、」 ダンテくんとバージルくんがお風呂から上がれば今日の仕事は終わる。お風呂掃除や厨房の掃除はそんなにはかからないから、私は一刻も早く就寝したふりをした方がいいわね。 数十分ほどして二人が同時に戻ってきた。私は掃除に行くことを告げ、そのまま寝ることを伝えた。明くる朝の希望起床時間を聞くとダンテくんは「ゆっくりでいいから昼頃適当に起こしに来てくれ。特に大事が用がある訳じゃないからな」といった。 「わかりました。それではおやすみなさいませ」 これは私を遠ざけるために罠ということはわかっている。二人は何かの秘密を今晩しようとしていて、そのために私に遅くまで起きていられてはまずいのだから。ふふ…、そんな見え見えの罠にかかる天下のじゃなくってよ。私が忍び込むためにした下準備は--------……なんですって話が長い?ちょっと!人が気持ちよく話しているってのになんてこと。ま、いいわ。じゃあ簡潔に話すようにするわね。 バージルくんの屋根裏で部屋の様子を見ていた私。ダンテくんが入ってきて、二人は穏やかに軽口をたたき合ったり仲のいい兄弟そのものだったの。私は拍子抜けしたくらいよ。でもその平和な時間はほんの小一時間で終わった。 「バージル…」 「…ダンテ」 二人は鼻と鼻がくっつくくらいお互いの顔をじいっと見つめて……唇を交わしたの。 深夜に屋根裏に忍び込んで得た真実、それは近親相姦---二人の息子たちの……。驚いたわよ、想像もしていなかったものね。あのくらいの子達が持っている秘密と言えばもっぱらドラッグ、援助交際、妊娠、中絶だとケータイ小説が証明しているわ。ディープラブね。 あの双子ちゃんは今回はそのどれも当てはまってはいなかったけれど、それでも私はパニックで泣きそうだったわ。 「…あ、おぉ…っ…どうしたらいいの…!?」 派遣一日目の晩にして子供達は両親のいないのをいいことに…兄弟で…男同士で!禁じられた遊びをしているのよ!この泣きたい気持ちを分かってもらえるかしら? 「スパーダさんは、さん頼んだよと全幅の信頼を寄せてくださったのに!私は兄弟の淫靡な交わりを止めることが出来なかった…!」 私はよろけてうずくまったわ。さいわい物音はせず、二人がこちらに気がつくこともなかった。見えない位置にいる私に気がつくこともなく双子達は淫らに絡みついている。ああ、ダンテくんのたくましい背中にバージルくんの足が強くからみついているのが見えるわ。ダンテくんは腰を揺らし、その度にバージルくんのすすり泣くような声が部屋に響いていた。 私はショックでその場から動くことが出来なかったわ。…でも、数分間そうしていると少しは状況になれたのかしら、ちょっとずつ私が戻ってきたの。 「思い出すのよ…」 あなたは今までも大変な目に遭ってきたわ!そんなときどうやって困難をくぐり抜けてきたのか思い出して!! 「……そう、私はいつも壁にぶつかるたびに逆に笑ってやったのよね」 私は落ち込んだときにも笑うおかげで数々の逆境を乗り越えてきたのだ…。笑うことにより心理的余裕が生まれ、狭くなっている考えをもう一度広く見直すことが出来るようになる、その名も…… 「スマイルは無敵の魔法。……。そうよ、今の私がやれることはなにかしら」 今の私に出来ることは、スパーダさんとの約束、双子のお世話をし、二人の素行を見守ること。私はこの現実から逃げるわけにはいかないということ。つまり--- 「家政婦として、最後まで職務を全うするだけよ」 私は目の前で起こることをつぶさに観察しなければならない! さぁ涙を拭くのよ、あなたは強いオンナ。プロとして彼らの行動を見届けるの。すべきことが決まったら立ち直りは早いものよ。私はさっと涙を拭いて、そっと彼らを観察する。 まず一度目のまじわりは動揺しているうちに終わってしまったわ。私が就寝したとばかり思っている二人は安心しきったように大きな声を上げて愉悦を表に出している。部屋のドアは閉め切っているから、大きな声を出しても廊下には響かない防音設備は万全。でも屋根裏には丸聞こえなの。隙間も空けてあるしね。 ダンテくんはバージルくんの期待と緊張に充血している性器をつかんでいる。 「ダンテ… 咥えてくれ」 「ラジャー」 バージルくんの若鮎のようなぴちぴちした肌が跳ねる。一度達したせいか、もっと敏感になってしまったように見えるわ。ダンテくんはそれにかまわず頭を上下させ始めた。その素早さと言ったら忍術を学んだ私の目にもとまらぬ早業よ。バージルくんは瞬く間にトロトロにされてしまったわ。ああ、あの無表情だったバージルくんが…あんなとろけた幸せそうな、でもどこか恥じらいを持った百合のような表情をするなんて数分前までは思っても見なかった。 「ダンテぇ…ダンテェ…っっ」 かすれた声がまた艶めかしいわ。じゅるじゅると卑猥な音を立ててダンテくんが責める!バージルくんを責めたてる!手は幹をすりあげてもう片方の手はバージルくんのパンパンに膨らんだ睾丸をもみもみ。バージルくんが困ったように眉根を寄せたわ。きっと気持ちイイのね…あの顔は「もうどうにでもして」、そう言ってる顔だもの。腹筋が震えているわ。 ダンテくんはバージルくんのペニスをもてあそんでいた片手を、お尻の方に移動させた。そうか、男同士はソコを使うのよね。洗浄は大丈夫なのかしら、衛生的な問題はクリアしているのかしら…ああでも、お風呂はちゃんと入って…… 「もしかしてそのときにも二人は!?若い二人が密室に一緒にいて、何もないとは考えられないじゃないッ!」 …今はそのことを追求している場合ではない。とにかく衛生問題は大丈夫とみていいわね。バージルくんの引き締まったお尻。尻えくぼがとても愛しいわ。そのお尻にもぞもぞと指を潜らせる。指の腹でアナルの入り口をゆっくり撫でる。 「んぁ……ダンテもう、…」 ダンテくんの喉がゴクリと鳴る。バージルくんの姿態に煽られたようね。わかるわ。入り口をぬぷぬぷしていた指をスピードを付けて往復運動させると、バージルくんは首をのけぞらせた。 「あぁ!……あーっ」 「バージル、すっげーえろい」 ダンテくんは咥えていた口を離してうっとりした目で語った。ほぅ…っと感嘆のため息をついて、バージルくんの体勢を俗に言うまんぐり返しに変更した。これならバージルくんがダンテくんを受け入れる場所も、そしてそこを弄ることで乱れるバージルくんの顔も一辺に見る事が出来るもの。策士だわ、どんなに幼くてもオトコなのね……。 ダンテくんはお尻の穴にむしゃぶりついた。まるでママのおっぱいを待ち望んでいた子供みたいだわ。ちゅうちゅうと無心に吸い続けるダンテくん。バージルくんは目尻に涙を浮かべて快感に耐えている。その顔はまるで痛みを堪えるイエスキリスト…いいえむしろ聖母マリアの受胎告知。太股が震え、ダンテくんの唾液がそこをつたい、ぷるぷるした袋を濡らすのに一役買ったの。 「早く、入れろ…っ!趣味が悪いぞ……あ、…ダンテぇ…」 ダンテくんがワザと焦らしているのを感じたのね。私も少しはそう思ったわ。好きな子にイジワルしたいだなんて、ダンテくんったら!メッ!泣かせるのは程ほどにしなくっちゃそっぽ向かれちゃうわよ! 「分かったよ。たっぷり可愛がってやるぜバージル…」 唾液とマッサージでほぐされたソコに、恐ろしいほど張り詰めたダンテくんは怒張をあてがってゆっくりと飲み込ませてゆく。ああああと大きな声を上げてバージルくんが弓なりに背筋を反らせる。ダンテくんが中に全部納めてしまうと、バージルくんの呼吸に少しずつ余裕が生まれる。まあぁ!バージルくんのなんて気持ちよさそうな顔!美しいくらいだわ。ダンテくんの男根に感覚を全て持って行かれてしまっているのね。 ダンテくんはリズミカルに動き始める。前立腺を刺激されているのかバージルくんは広げた股をぶるぶる震わせている。お尻の穴を奥まで拡げられて揺さぶられ、バージルくんの手が硬くシーツを掴む。すでにペニスは射精寸前のように震えて勃起していた。 「ん、んん、ああっ!!!…」 体の奥からダンテくんの与える快感が広がっているのね。バージルくんの中がきつく収縮してダンテくんの顔がにやっと笑った。そのとき! ダンテくんが天井をちらっと見た気がしたの。ほんの一瞬だけど…。でもそれはあまりに瞬間で、次の瞬間にはもうバージルくんの方に顔を向けていた。偶然?それとも… 「すげぇよバージル…きつくって暖かくって気持ちいいぜ…アンタのケツマンコ」 さっきからダンテくんは卑猥な言葉ばかりを連発してバージルくんの欲情を煽っているけれど、まったく聞いている方が赤面しちゃうワ。 激しく突き動かされて、バージルくんのペニスが一足先に先端から精液を勢いよく噴射した!その勢いたるやナイアガラの滝のように怒濤だわ。最近の子は皆そうなのかしら…すごいわねえ。 「くそっ、俺も…出すぜ!」 つられてダンテくんも射精タイムに入ったわ。……まぁっ、バージルくんたら中に出されると余計に感じるのかしら、ぽろぽろ泣き出しちゃったの。感じやすい子は可愛いわねえ。バージルくんは口を閉じられないほど蕩けちゃってはぁはぁと喘いでいるわ。だってダンテくんは達した後もゆるゆると腰を動かして中を刺激し続けているんだもの。イジワルさん。 ダンテくんはバージルくんに慈愛のキスをちゅっちゅと落としたわ。優しくて…愛に満ちて…見ていて癒されるようなキス。幸せね。きっと二人は幸せなのね。それが例えいけないことでも、世界が許さなくても二人はきっとこの絆を手放さない、そういう予感がした。 ……忘れてはいけない、私は……伝説のトラブルバスター。 二人はその後、お風呂に行って汗を流しながら更に三度ほど合体したわ。若さね。そして互いの部屋に帰り今度こそ本当の眠りについた。それを見届けて、ふぅっ…今日の私の役目はここまでと額の汗をぬぐったわ。 悪夢の夜を経ても、いつかは爽やかな朝がやってくる。朝はいらないと言われたので昼食の時間に二人に声をかける。 「おはようございますダンテさんバージルさん」 「おはよう」 「はよー!」 バージルくんは席について黙々食べ始めた。その顔は、愛する人に抱かれた自信に満ちあふれていて凛々しいわ。相変わらずの無愛想さんだけど、でもね…オバちゃん知ってるのよ昨日の晩のこと。あなたがダンテくんに抱かれてあんな顔するってコト…☆ 「ふふっ」 「ん? なんだ機嫌良いみてぇだな」 「ええ、今日はとっても良いお天気ですし自然と嬉しくなってしまうんです」 バージルくんに遅れて食堂に入ってきたダンテくんは早速私に話しかけてくれた。イイ子ねえ。でも…夜はとっても悪いコなのよネ…★ ダンテくんとバージルくんは山盛りになった御飯を平らげてゆく。見ていて気持ちのいい食べっぷり。作った甲斐があったわぁ。それにしてもよく食べるわねえ。体全体が胃袋で出来てるのかしらん。 さてこのあとは食事の後始末、昼と夕ご飯の下準備に洗濯物の取り入れ…今日も張り切るわよ! 「ごちそうさま」 「ごっそさーん」 同時に食べ終わる二人。こんなところまで気が合うのね。いいえ、気が合うってレベルじゃなかったわよね。二人はお付き合い…いえ、お突き愛の仲。ちょっとおゲレツだったかしら、ごめんなさいね。 ダンテくんがにこやかな明るい笑顔で美味しかったぜーといい、私の肩をポンっと叩いて横を通り抜ける。そのとき小声でこう囁いたわ。 「24時間、仕事熱心だよなぁ〜は…」 「え?」 「昼飯楽しみにしてるなー!」 今の台詞は、まさか?!私の隠密は完璧だった。見つかるはずがない!ダンテくんの姿は廊下に消えたけれど私は追いかけることが出来ない。 「……まさかね…… そうよね、仕事熱心で褒められるコトなんてよくあることだもの…。あの時の気配を悟られたはずはないわ」 我が一族の忍術はァァァアアア世界一ッイイイイ!! このッ、容赦せん! 「万が一のために気を引き締めていかなければならないわね…ふふ…まさか私が本気を出すときが来るなんて…!楽しくなってきたじゃない!」 どんと来い、一筋縄でいかない案件!!たんと味わうが良いッの出歯亀力!!! それから、血で血を洗うような熾烈な家政婦生活が始まったのよ… 彼らはご両親がいないのをいいことに、私が居ない場所でところ構わずよっこらセっ…、愛の絆を確認し合う作業を始めたのよ。お風呂場で、廊下で、庭で、縁側で、バルコニーで、食堂で、寝室で、玄関で、書斎で、物置で、屋上で…彼らが合体してない場所はないほどに。 これが他の家政婦であれば騙すことも出来たでしょう。ちゃんと私の居ないところでしか致さないのだもの。それほど彼らは慎重を期し、私の居ない場所を確認していた。でも残念だったわね、私は伝説の家政婦。どこでケダモノになっていたとしても、優れた聴覚で即座に彼らの行いを感じることが出来るのよ! 夫妻が帰ってくるその日まで、私は彼らの回数を調べ、体位を調べ、写真を撮り、ハンディカムで撮影をし、傾向を調べ尽くした。ダンバジノートはおよそ10冊に及んだわ。この世に私ほど彼ら兄弟の性癖を知り尽くした人間はいないでしょう。この「愛についてのレポート」は私の血と汗の結晶。 相も変わらず屋敷は最新鋭の設備が整っていたから、私が二人を調べているときにアナウンスがささやいてくれたり至れり尽くせりだったわ。ただ…やはり文明に頼ってばかりで軟弱になったのかしら?何もないところで躓くようになったりもして…。確実に何かに当たったような感触と、犬の声ともつかないギャワワンという鳴き声や兄者だの弟者だの、色々聞こえたんだけどボケの兆候かしら、いやだわぁ。老いてなお盛んがワタシのポリシーなのよ。 そして審判の日がやってきた。 私がここでおつとめをする最後の日。それはスパーダ夫妻が帰宅なされる日。私は今日この日を無事に迎えるまでの使用人。長かったようで短い日々だった…。ダンテくんとバージルくんの美形兄弟を眼福にしながら二人の世話をし、夜のことも気がついてない振りをしてレポートを綴る。バージルくんはきっと気がついていないままだった。彼は無愛想だけど嘘は付けない人だから、私がそんな処を覗いていると知ったらきっと平静ではいられない。いられるはずがない。それがバージルというオトコノコの私の見解。 問題はダンテくん、彼はもしかしたら気がついているかも知れないわ。でも……それなら何故ワタシの行動を止めないのかが分からない。知らないなら止められないのも道理だけど…。もし知っていて私を止めなかったのなら、レポートにもう一言添える必要があるわ。見られて興奮する性癖あり、ってね……。 夫妻の帰りは夕方頃になるとの連絡があった。私は最後の晩餐を備えるべくその日は朝から忙しかった。ダンテくんもバージルくんも妙にそわそわしていたわ。 キッチンで見事な手さばきで灰汁を取っていた私に、ダンテくんが話しかけてきた。 「」 「なんでしょうダンテさん」 「ほんとに今日帰っちまうんだな…寂しくなるぜこの家も」 「何を言ってるんですか、ご両親がお帰りになられるじゃないですか」 「そうだけど!は…もうなんつうかさ……」 イイ子ねダンテくん。ワタシも貴方のような良い子は大好きよ。上手く言葉に出来ないダンテくんは髪の毛をかき回す。 「ダンテ!…彼女の仕事の邪魔をするな」 バージルくんがそんなダンテくんを迎えに来て首根を掴んだ。彼とは相変わらず上手く打ち解けることは出来なかった。彼の人間不信?母性拒否?その壁は厚く、高かったわ。 「…さん」 「は、はいっ!」 「今まで世話になった、感謝する」 「バージル!お前何でそうぶっきらぼうなんだよっていてててて!」 ……。バージルくんが始めて私の名を呼んでくれた。しかも、感謝するって…。そう…、そうなの…。 「本当に不器用なコね…」 ありがとう。私は胸を満たす静かな喜びを感じていた。お仕えした方々からの感謝、それが家政婦の一番の喜びよ。ああ神様。 「ここに来て良かった」 「それはよかった、なぁ兄者」 「それはよかった、のぅ弟者」 「いえいえこちらこそお世話になりました」 この音声案内にも何度助けてもらったことか。ここ一月の間の食材確保や双子ちゃんの素行観察他、数え切れないほどのアクシデントが起こる度にアナウンスは私を助けてくれた。スパーダさん、こんな素敵な機能を取り付けて下さったことに感謝いたします。 感動しつつも私の手は止まらない。夕方までに仕上げなければならないんだもの。時間は有限、急がなきゃね。 そして数時間後、ついに夫妻がご帰宅なされたの。すぐさま私はお二人の旅の埃を払い、お着替えを渡して晩餐の間へとお連れしたわ。この日は二人のご帰還とあって息子達も正装よ。きりっとスーツを着こなして髪の毛をなでつけている二人のなんて男らしいこと。やっぱり素敵な二人ね。コレを見るのも…もう今夜が最後…。いけないいけない!感傷に浸る場合でもないわ!私にはやる仕事が残っている!まずはお給仕しなくては。 「さぁさ、この良き日にが腕をふるわせて頂きました!たんとお食べ下さいな」 穏やかに始まる家族の晩餐会。美しい家族の団欒。旦那様も奥様も舌鼓を打って下さっている。晩餐会は大成功ね!ダンテくんがこちらに目配せしてウィンクをくれる。最後までお茶目な子!バージルくんもパッと見は分からないけれど、味わってくれているのがよく分かるわ。ここ一月で僅かな感情程度は探れるようになってきたの。機嫌が良いときは口の端が1ミクロン上がるのよ。 ダンテくんがご両親に話しかける。 「結局どこ行ってきたんだよオヤジとオフクロは」 「おかあさんとお前達の生まれ故郷のイタリアにな。ゆっくりしてきたよ。あとは少しだけ魔界旅行だな。おかあさんが私の生まれ故郷を見たいと譲らないので困ってしまってね」 マカイってどこの都市かしら。私は地理に明るくないからよく分からないけど、奥様があんなにお喜びになっているんだもの、素敵な場所なんでしょうね。バージルくんが口を挟む。 「母さん。母さんは普通の人間なんだから魔界に行くべきじゃない」 「バージルまでそういうのね。でも大丈夫よスパーダは私を愛してくれているから、魔界に行ってもその愛の力で私の体には一切影響が出ないのよ?」 「そう言う問題じゃない」 「もう、バージルってば硬いんだから」 ほほえましい会話。ご両親を前にすると一気にダンテくんもバージルくんも子供に戻ってしまうようだわ。 そして…晩餐が終わる。ご一家は料理を食べ終え、私は手際よく食器を片付けた。私は今日中にここを立ち去るので最後に家政婦と家族との会話があるのだ。 私は部屋にゆき、全ての支度と荷物を持ってご家族の前に立つ。 「まず、ご一家全員に感謝を述べさせて下さい。短い間でしたが素敵なお子様達のお世話をさせていただいてとても良い思い出をいただきました。旦那様や奥様とはゆっくりお話しすることもままなりませんでしたが、私に対してとても心を砕いて下さったことを感謝しております」 「とんでもない、貴方だからこそ私たちはこの不肖の息子達を任せることが出来たのです。感謝するのはこちらの方です、なぁエヴァ」 「ええ。…本当に今までありがとうございました、さん」 なんて素敵な人たち。私はここを立ち去るけれど、あなた方は第二の家族も同然でした。 でも、家族だからこそ----今こそ私は打ち明ける。 私はそっと、丹精込めて完成させたダンバジ愛についてのレポートをご夫妻に渡した。 ダンテくんの顔色が変わる。 「、それ…!!!」 「これが私が出来る最後の仕事です」 ノート10冊分の重さは私の愛の重さ。受け取ったスパーダさんがなんだろうという顔をしている。 「これは…?息子達の生活報告かな」 「はい、やはりご両親には知っておいていただいた方がよろしいかと思いまして。これはお二人の----」 「バージル、奪え!!!!」 「DIEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!」 ダンテくんとバージルくんが叫んだかと思うと、次の瞬間なんとスパーダさんに取り押さえられていたわ。…一瞬の間に何があったのかしら?NINJAの私にさえ見ることが出来ないなんて。 「お前達二人がここまで慌てると言うことは、これにはお前達にとって相当な不都合が書いてあると言うことだな」 「くそオヤジ、はなしやがれ!」 ダンテくんがスパーダさんの下でもがく。でもスパーダさんはびくともしない。力の強い人だったのね。二人を押さえつけたスパーダさんはそのまま一冊目のノートを開いた。バージルくんの顔も蒼白だった。 ノートをめくるうちにスパーダさんの顔色が徐々に黒くなってゆく。黒?ええ。黒よ。青じゃないわよ。それになんだか背中が盛り上がってきて…こう言ってはなんだけど、せむしのようになってきた。服がぴりぴりと破ける音さえした気がしたわ。 「エヴァ…お前も読んでごらん」 「ええ」 夫の状態にただ事でない何かを感じたのか、はらはらして見守っていた奥様が駆け寄った。すぐさまノートを受け取り、中身を見て顔を紅くさせる。 「………あなた!」 「うむ…本当の、こと…ノ…ヨウ……ダナ…」 あらっどうしたのかしら。旦那様ったらしゃべりかたまで片言になってきた。でも気持ちは分かるわ…実の息子達があんな淫らな関係だと知ったら私だって黙ってはおけないでしょう。この家族の闇は、この二人の息子の秘められた関係だったのだわ。私はそれを白日の下に晒すために派遣されたのよ。 「…ダンテ……バージル……」 スパーダさんは今やもう鬼の形相。こんな恐ろしいお顔が出来る方だったのね。ダンテくんは必死に声を振り絞る。 「オヤジとりあえず落ち着こうぜ、な? こんなところで変身したら家が滅茶苦茶になるし、ほら今着てる服だってそのままじゃ羽が飛び出てくるかも-----」 「ダンテ!黙っておとうさんの言葉を待ちなさい!!」 奥様が叫ぶ。バージルさんはもう黙って顔色を土気色にさせている。ちょっと二人が可哀想になったけれど、でも…こうするしかないのよ、分かって頂戴。あなた方の心の闇を解決するにはもうこれしか……! 「では、私はここで。お世話になりました」 これ以上の首を突っ込むのはそれこそ野暮というモノだわ。私は、この屋敷ですべきことを全てやり遂げた。 呼んであった帰りのタクシーで、私はやり遂げた仕事の充足感で一杯だった。タクシーの運転手さんは丁度一月前にワタシを送ってくれた人だったの。 「お客さん、何か良いことでもあったんですか?なんだかニコニコしていい顔ですね。こんなに長い間ここに務めることが出来た人、俺が知る限り初めてだよ!」 「あらぁ、やっぱりわかるぅ。そうなの、私やり遂げたのよ!それにいいご家庭だったわ、お化け屋敷って言うのもただの噂にしか過ぎなかったしね」 「そうだったんですか。いやはや幽霊の正体見たりただの噂、ってやつですねぇ」 「そうね。…ふあぁ、着くまで少し寝るわね」 私はそう言って目を閉じた。にとって戦いの場はいつでも用意されている。だから、これは次の戦場へ赴くまでの短い安らぎの時間…。 「さぁ!貴方を待っている次の仕事は何かしら?……」 心の中で呟く。家族の問題を提起し、内容を暴露し、結果として解決へと向かわせる。今回はやり方が荒っぽくなってしまったけれどこれでスパーダ一家はあの問題を乗り越えるでしょう。 「それだけの家族の深い絆、感じさせてもらったんだもの」 例えそれが困難な道のりであっても大丈夫、あの家族の絆であれば明るいゴールがまっているわ。 「次の仕事も----がんばっちゃうわよぉ!」 伝説のの話はここで終わり。 でもね、アナタが必要なときはいつでも呼んでくれて構わないわ。今回の報告はいかがだったかしら?……そう、それならよかった。話した甲斐があったというものよ。え?ご一家のその後が気になるですって?もう、アナタってばとんだヤジ馬ね。じゃあ少しだけよ、少しだけ。 なんでも私が去ってからあの山一帯には地震雷火事洪水---異常気象が立て続けに起こって、あのお家はどこか別の場所に引っ越してしまったらしいの。家族の行方は、誰も知らない。 でも私は確信してる。きっと嵐を乗り越えて家族の絆は元通りになっているって。だって私の第二の家族ですもの、このくらいの荒波なんて上手く乗り越えてもらわなくっちゃ、ネ…☆ さ、今度こそここでおしまい。長くなったけど最後まで聞いてくれてありがとう。 じゃ……またね。 、その愛 終幕 |